院進-k(インシンク)|大学院進学について考えるためのポータルサイト

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一度社会に出たからこそ、再度大学院へ戻るという選択について考えること【後編】

A氏のプロフィール:大学卒業後、大学院(修士学生)へ進学。一度社会人として約5年 研究開発職として働かれたのち、再び大学院(博士学生)へと戻られました。2018年新卒として民間企業へ就職されるご予定です。

インタビュアー:中川 小耶加
大学院修了(修士(学術))後、約5年間 金融業界で働く。その後大学院へ戻り、博士後期課程単位取得満期退学。2016年10月よりアカリクに入社。現在は、主にアカリクITイベントなどイベント関連の業務に従事。

前回は主に、国家プロジェクトで働いていた時までのお話を伺いました。今回はその続きで、博士後期課程に進学されてからのお話を伺っていきます。

■次のステップとして博士の学位取得を志す■

プロジェクトが終わった後に、派遣でも正社員でも、会社で続けていこうと思えばできたのではないかと思うのですが、なぜ大学院に戻ろうと思ったのですか

 プロジェクトが終了する直前くらいから会社の方とも相談していたのですが、やはりその会社にそのまま正社員として雇ってもらうことはできないという話でした。特定派遣の会社は、契約終了間近になると次の仕事を紹介してくれるんですけど、そうすると次も派遣になっちゃうんですよね。NHKの番組とかでも、派遣から抜け出せなくなるという話を見たりして、自分でもそうなるのではないかという恐怖がありましたので、できれば派遣ではない仕事がしたいと思いました。再生医療に関わる仕事を正社員でできればいいけど、僕の利用していた特定派遣の会社は正社員の仕事は扱っていないので、どうしようと思っているときに、修士時代のひとつ下の後輩の女の子から研究を引き継いでほしいという話が来ました。彼女はほかの大学の生命理工系の博士後期課程に進学しましたが、卒業することになっていて、研究を引き継いでくれる人を探していてるということでした。
 アカデミックに戻ってしまうことに関しては、それはそれで抵抗があって悩みました。そこで大学院の担当の先生や派遣で働いていた会社の人とも話をしてみました。大学院の担当の先生は「ぜひ研究を引き継いでほしい」ということでしたし、プロジェクトでお世話になった会社の方も「博士を取るのはすごくいいと思うよ」と勧めてくれました。
 また、その大学院の生命理工系の博士後期課程は3年コースということでした。博士の生物系としては、3年というのは短い方だと思いますが、3年で卒業できそうなコースだということと、しかも研究もあとちょっとで論文にできるかもしれないっていうところまで来ていたので、これなら短いスパンで博士号を取って、また就職活動できるんじゃないかなと思って、進学を決めました。

一度でも大学から外に出られた方は、「御縁」でお話が来るということが多いように感じます

 それは本当に、自分でもそう思います。チャンスは人からやって来ると思っているので。
 このたび内定をいただいた会社も、プロジェクトでお世話になった会社の方に相談したときに紹介していただきました。「うちの会社と、もうひとつ受けてみてほしい」というように話が進んで、受けることにしたのですが、「もうひとつ受けてみて」と言われたほうで無事に内定をいただくまで至りました。
 プロジェクトでお世話になった会社は、ちょっとご縁がなかったですね。再生医療の事業も一応まだ継続してはいるのですが、そこまで人材を多く求めてないという感じでした。まだまだ少ない人数で基礎的な研究をやっているようで、再生医療の部門で新たな人材を増やしていく気はあまりないのではないかと思っています。一応エントリーしましたが、面接には呼んでもらえなかったので、そういうことなのかなと解釈しています。
 今回内定をいただいた会社は、かなりの金額を投資して、新たに再生医療の事業に踏み出そうとしています。その会社は強化ガラスとか、化学材料とか半導体の材料などを作っている会社なのですが、次々新しい事業に投資をしていく方針で、次は再生医療へ投資することが決まっています。ちょうど僕が入る2018年の4月に事業が本格稼働することになっていて、その事業所に配属されるということで、採用が決まりました。

■豊富な経験を活かした2度目の就職活動■

大学院、民間企業の正社員、派遣と経験されて、新たな発見はありましたか

 そうですね。再生医療製品の開発となると、製薬メーカーなども結構力を入れていて、今は競争が激しくなっているところだと思います。そういう状況下では、再生医療製品に関わる様々な情報に触れる機会が多いのですが、自分は拡大培養装置の製造に携わったということもあって、再生医療製品を産業レベルに落とし込んで患者さんの元に届ける仕事の方が面白い、自分に合っているんじゃないかなと思うようになりました。内定をいただいた会社の事業は再生医療製品の受託生産で、僕の希望にぴったりと合うものでした。他社で作られた再生医療製品の製造を受託して、患者さんのところに届けるという仕事です。

博士後期課程に進学されて、そのままアカデミックの世界に留まるという選択肢もあったと思うのですが、どういう理由から就職活動に踏み切ったのでしょうか

 そうですね。アカデミックに残るという考えも実際にはありました。ですが、博士後期課程に在籍中、3年とか5年とかの短いスパンの契約で常に次の職について心配しなければならないっていうアカデミックの大変さみたいなのを目の当たりにして、アカデミックはとても競争が激しいところだと感じたので、自分は企業に戻ろうと考えました。自分の指導教員だった方は最初、非常勤講師という立場で最初の1年目はお金をもらって働いていたのですが、契約が切れた後は1年間くらい無給の非常勤講師という立場で大学に残っていました。一応就職活動はしていたけれど、なかなか次が決まらないという状況で、その方の大変さを身近に感じたのかもしれません。でも嬉しいことに、その方もちょうど2、3か月前に内定が出て、この4月から勤務しています。

就職活動で苦労した点や工夫した点はありましたか

 父が勤務している会社も再生医療の事業をやっていたので、父を通じてエントリーしたのですが、私の履歴書を見た採用の方に「30歳を過ぎているので、新卒はちょっと厳しい。キャリア採用に回ってほしい」と言われました。それでキャリア採用の方でも応募しましたが、キャリア採用の場合はドンピシャでその会社がやっている研究をやっている人でないと即戦力になりませんので、落とされてしまいました。博士後期課程でやっていたエピジェネティクスの研究は、全く関係ないというわけではありませんが、少し再生医療からは外れているので。
 ということで、就職活動のときには「博士の研究は再生医療と全く関係ないわけではありません」と説明しました(笑)。もちろんバイオの技術とか基本的なことは変わらないので「その技術を御社で使えます」とアピールました。
 先ほど「自分は再生医療の産業化に向いている」と言ったのですが、そう感じたのは就職活動のときです。就職活動で自己分析をするときに、自分の強みはどこにあるのかと考えました。学部から修士、博士と再生医療向けの研究室でストレートに来た学生と、どうしても比較されてしまうので。そうすると自分は、新しい再生医療商品を作るというよりは、社会に出たことで得た事業者感覚やビジネス感覚を持って再生医療の産業化に貢献できる点を自分の強みとしてアピールするべきだと考えました。

この度、内定をもらった会社には新卒として採用されたのですか。

 はい、新卒採用になります。ぜひ、そういう会社が増えてくれるといいなと思います。日本では、一度レールから零れ落ちたらもうチャンスがないという考え方が、まだまだ多いように思いますので。
 僕は博士課程だし再生医療の業界に行きたいので10社程度に絞っていましたが、製薬メーカーは書類で通りませんでした。今になって思うと、新卒扱いでこの年齢だとダメだとか何かあるのかもしれません。さっきも言ったように、再生医療系だとストレートに進んできた博士の方は知識とか技術とかきっと高いので、比較されてしまうと年齢とかキャリアとかもあって、難しかったのかなと。
 就職活動で印象深かったことは色々ありますけど、一番最初に面接に呼んでいただいた大きな会社のグループディスカッションですね。グループディスカッションは久しぶりでしたが、経験がなかったわけではありませんでしたので、大丈夫だろうと思って会場に行きました。でも、揃っている学生が東大生とか慶応学生で、みんな頭の回転もすごく速くて、キレる意見がバンバン飛び出して、自分がこれまでに経験してきた集団面接とは違って、面喰いました(笑)。自分的には、司会とかもやって手ごたえがあったのですが、結果はダメでした。やっぱり年齢と能力とを見比べて、会社の中の同じ年齢の人と比較されていたと思うのですが、能力がまだ足りなかったのかなと思いました。

最初に就活されたとき(修士のとき)の自分にアドバイスをするとしたら、どのようにアドバイスしますか

 当時は深く考えていなくて、再生医療っていうキーワードだけで考えて「再生医療をやってる会社はこんなに少ないんだ」という厳しい現実をみて、とりあえず該当する企業を受けてみたという感じでした。今の自分が昔の自分にアドバイスできるとしたら「そもそもダメだったら博士進学した方がいいよ」とか「最初から寄り道せずに進学した方がいいよ」とかですかね。あとは再生医療そのものやっている会社じゃなくても、臨床系の会社とかCROとか様々な会社があるから、そういうところに就職すれば再生医療に戻ってこられるよ、とかアドバイスできたかもしれないですね。
 入る前は食品会社でも楽しく仕事できると思っていましたし、実際やってみて面白かった部分もやりがいを感じる部分もありましたし、人生無駄ではなかったかなっていう風に思います。実際に就職活動では、食品会社っていう異例の経歴を使って「こんなことを活かせるんですよ」というアピールをしました。一回社会に出ているっていうのが弱みにならないように、そこをポジティブに、一回社会に出ているからこそできることをアピールしました。
 また、一度も社会に出ていないと、一喜一憂というか気持ちの浮き沈みはあると思いますが、一度社会に出たので今回は割り切り、冷静に就職活動ができました(笑)。

■自分のキャリアパスを見つめ直し、10年後のビジョンを描く■

今後も再生医療の道を進んでいきたいと思っていらっしゃいますか

 はい、せっかく新しい事業で雇ってもらえるので、再生医療携わっていきたいと思っています。おそらく5年くらいは異動もないと思いますので。横浜に新しい事業所ができるんですが、たぶんその事業所でずっと勤務することになると思います。再生医療の受託製造は新しい事業分野ですので、それをビジネスに乗せて売り上げとか数値の目標を達成するのに自分の全力を注ぎこみたいと思っています。10年後には、国内外に新しい製造拠点を作るということもあり得ます。これから新規事業所の立ち上げに参加できるので、その立ち上げに参加した経験を活かして、新規事業所ができるときには、ひとつ上の立場になって工場全体とかを見ながらマネージメントする仕事をしたいですね。
 そのビジョンには食品会社での経験も活きています。食品会社にいるときに一緒に働く上司を見ていたので、こういう立場の人はそういうことをしているんだなっていうのも想像できます。たとえば食品会社の部長は、基本的に月1~2回ほど中国の工場に行って、それを視察して報告書を書いていました。そういう現場を見られたことが、具体的に10年後のビジョンを描けるところに活きていると思います。

大学院生で就職しようか博士への進学をしようか悩んでいる方にアドバイスがありましたら、なにを一番伝えたいですか

 そうですね。自分が一番気を付けていたのは、筋が通っているか通っていないかをしっかり意識することでした。最初に父に「自分はこのときにこのように考えたから、こういう選択をした」というところで、しっかりと筋が通っているかどうか、ちゃんと注意するようにと言われました。自分の異色の経歴について筋を通して説明できるように、本音と建て前を使いながら考えました。本音の部分をポジティブに考えて、筋の通る建前にしていくっていう作業を頑張りました。
 あと、修士で卒業して就職するのも博士で卒業して就職するのも、どっちがいいとかではないし、どっちが有利とかでもないと思います。なので「修士のときの研究の経験から自分は再生医療をやりたいと思っていたので、研究内容が変わってしまうけれど、博士ではここに進学しました。それを踏まえて今は就職活動をしています」といったことがしっかりと話せると、プラスになると思います。自分を客観視して、自分の話に筋が通っているかどうかをチェックできればいいのではと思います。

ありがとうございました。


アカリクでは大学院進学を考える上での一助となるような活動を積極的に行っております。

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